SEAPOOLのEP『Kiss The Element』レビュー

80年代ロックの影響を色濃く感じるが、現代的な個性も強い。

 

ボーカルはSonic Youthナンバーガールの影響があると公言し、確かにノイズパンク、オルタナティブ、ポストロック、グランジの強調が多い。

 

まるでそのSonic Youthの楽曲を日本語で女性ボーカルがカバーしたと言っても納得してしまうほどの影響を感じる。しかし、ボーカルの個性が強く、楽器隊の演奏スキルも強いだろう。

Kiss The Element

Kiss The Element

  • 発売日: 2020/02/26
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最近の日本のバンドは海外からの影響を受けて様々な音楽性を表現するバンドが多く、オルタナティブロックとカテゴライズで片付けられがちである。

それも、ナンバーガールを始め、90年代のロックから特にそうであったと思う。

80年代はフォークを始め、ブルース、R&Bサイケデリック…。

 

現在は影響を受けているが独自の表現や世界観とまるでこれまで洋楽を邦楽に置き換えたような影響で表現しているバンドがいて、シンプルに片付けられがちである。

 

しかし、ちゃんとした枠組みを与えられるバンドもいる。

WANIMAは特にそうであるが、パンクはカテゴライズがしやすく、特別分けられがちである。

 

しかし、この傾向の中で、あまり日本のメジャーシーンでなじみのない音楽性が入ってきたときはやはり”オルタナティブ”にカテゴライズされがちである。

 

前置きが長くなった。

SEAPOOLがシューゲイザーを基調としていた初期のきのこ帝国と近い位置にあるのと同時に、リーガルリリーに近いグランジ要素も強く感じた。

ギターのノイズとベースのリズムの組み合わせが心地よく、80年代ロックを想起させるドラムの力強いながら軽快なリズム。

そして、ボーカルのけんか腰というかけだるげで荒げた歌声がなんとも言えないグランジ調の世界観を築いている。

 この1曲目の『Schizo Flare』は、全体的にシューゲイザーに仕上がっていてEPの入り口としてはとても入りやすい入り口になっている。

サビにたどり着けば『スキゾフレア』というフレーズとともにノイズロックに塗り替えられ、自信満載で主張を的確にし、うるさすぎず聴きやすく仕上がっている。

2番のサビが終わればこもったギターのリフが続くが、おかげでスカッとせず引きづって聴き続けてしまう。

 

不思議で音像の主張が強いが、ドリームポップのような雰囲気を生んでいる。

 

シャーロット

シャーロット

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2曲目の『シャーロット』はガラッとテンポが速く、一曲通しノイズパンク。まさにSonic Youthの日本語女性ボーカル版である。

楽曲は2分30秒程度。癖が強い楽曲の為この短さがちょうどよく、次の曲までの距離が短く、今の音楽なじみの浅い人間にもEPを一曲目から通して聴くには聴きやすく出来ているであろう。

 

素描

素描

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3曲目の『素描』はドラムの雰囲気がイントロから印象を変えていて、ジャズ調だと感じた。

なかなかノイズパンクからの切込みで3曲目にうつると雰囲気が変わり飽きがこないのだ。

面白いのが間奏部分に演奏がギターの一本で、間を取り持っていて聴き疲れがなく、まだメジャーデビューしていないバンドとしてはスキルが高いであろう。

 

PEAT MOSS

PEAT MOSS

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4曲目の『PEAT MOSS』に関してはEPの中で一番私は好きである。

イントロと、急なボーカルの歌の入りの破天荒さと疾走感から後半のロウテンポに変化するところからまだBPMが上がっていくところがカッコいい。

歌唱は譜面に従っていないような語り口調なところが訴えを強く感じる。

楽曲の展開的には一曲で変化をしていくRadhioheadのようなものを感じた。

 

candle

candle

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5曲目の『Candle』

アルバムを通して疾走感やノイズが強かったのに対して静かでロウでドラムのリズムの反響が最後の曲にぴったりであった。

しかし、3分30秒を過ぎるまでは。

3分30秒以降はボーカルは入らずアウトロなのだが、BPMを上げ音像を増やし、若々しくはっちゃけ、荒々しい。まだ足りないと言わんばかりの疾走感のある音像の増強されるのがかっこよく、ギターの音色がエモい。

なぜだか最後の曲で爽快感というか達成感的な感情を抱かせる曲を持ってきがちだと思うが、残り香、心に違和感を残すのだ。アウトロの最後に差し掛かったところで再びゆっくりになり、心残りを覚え、何度も通して聴きたくなる。

 

 

 おまとめ

全体的に音の量が多く昔ながらのグランジオルタナティブロックの要素をうまい具合に表現していてインディーズにはもったいない音のボリューム感と気持ちのいいリズム感が癖になる。

一曲一曲ジャンルは近いが異なる表現が施されており個性がまるでガラッと変わる。

しかし、バンドの形が完成していて、演奏の一体感と一枚のうちで一曲一曲がここまで世界観の表現が違ってくると、今後の変化にも期待が高まる。

長い曲、短い曲。柔軟さが面白い。

なにより、音の加工が全体的に施されているのは浮遊感を与えることができ、ギターの残響も見事の浸っていて快感的だ。

そしてまるで、楽曲の変化がガラガラと居た場所から別の異世界へと移動していく不思議な感覚を全5曲を通して感じた。まるで、さっきまでいた現実を喪失していったようなトラベルである。

このバンドがこれからどんな形態でどんな音楽の畑に移動していくのか楽しみだ。

 

 

 参考記事:

magazine.tunecore.co.jp

 

おやすみ。