【CDレビュー】米津玄師『STARAY SHEEP』
米津玄師ファン待望の5thアルバム『STRAY SHEEP』が発売された。
前回の『BOOTLEG』から2年10ヶ月ぶりだ。
タイアップが6曲、セルフカバー2曲、前回同様にコラボ楽曲として1曲収録されているが、『BOOTLEG』とは確実に変化をした作品群が揃ったアルバムのトラック紹介をしていきたいと思う。
- 1.『カムパネルラ』
- 2.『Flamingo』
- 3.『感電』
- 4.『PLACEBO』+野田洋次郎
- 5.『パプリカ』
- 6.『馬と鹿』
- 7.『優しい人』
- 8.『Lemon』
- 9.『まちがいさがし』
- 10.『ひまわり』
- 11.『迷える羊』
- 12.『Décolleté』
- 13.『TEENAGE RIOT』
- 14.『海の幽霊』
- 15.『カナリヤ』
- 特典についての感想
- まとめ&感想
1.『カムパネルラ』
Aメロから母音(u)で韻を踏むのに語尾に多用されていてキャッチ―になっている。
これまでにない煌びやかな音がなっていて景色がこれまでのアルバムの構成に対して新しい出だしで、これまで以上に世界観の壮大さがある。
歌の節々に重たい弦楽器の音が挟まれ飽きさせないための施しがなされているのは流石米津玄師というところ。
2.『Flamingo』
下手なことは言いません。独特なリズム、クネクネしたメロディ、好きです。
米津玄師のお陰でいろんな動物を好きになってしまいます。
3.『感電』
『海の幽霊』で一緒に制作に当たった坂東祐大さんとの制作によって影響下にあるジャズ、ファンクのブラックミュージック要素が米津玄師として新しいジャンルが加わった楽曲。
これまでブラックミュージックは米津玄師からは離れた位置にあると思われていたが最近のJ-POPの傾向に乗っかった音楽性と加えて米津の音選びでノリは繰り返しているだけではなく、パラッパッパッパなサックスの音が高揚感を与えていてジャズやファンクとしても新鮮な楽曲になっていて実験的なのに完成していて古臭さも漂いながら最小限に抑えられハイカラに仕上がっていてライブで聴いたら一瞬で感電死してしまいそうだ!特にワンワンワンとニャンニャンニャンにはいちころだ……。
歌には独特なグルーヴがある。
〈たった一瞬のーこのきらめーきを食べ尽くそう二人でくたばるまで
そして幸運をー僕らにいのーりをーまだ行こう誰も追いつけないくらいのスピードで〉
と一気に盛り上がる部分が一節の中で何度も繰り返されていることによってさらにさらにと盛り上げる効果を生んでいる。まるでデビュー初期からは考えられなかった強弱の工夫はもはや別人ではないかと疑いたくなる。
4.『PLACEBO』+野田洋次郎
野田洋次郎との米津玄師の掛け合いが面白く、以外にもすんなりと聴いていられた。
だけどクセがやはり強いのはリリックの独特なライム。
(e)《~しまって》《笑顔で》《夕暮れ》《火を灯せ》《朝まで》…
(u)《~なっていく》《ときめいていく》《思いがけぬ》《とんだランデブ―》
………と語尾で掴んで、また、後半で(a)が多用されることによって開けた聞こえ方で終わるという繰り返しが合って締まりがあるようにも聴こえて面白い構造になっている。
通して聴いてマジで洋次郎に《ピーカプー》と当然のように歌わせた米津のリリックたるや末恐ろしい。(洋次郎の歌い方が可愛い)
横文字である《ランデブー》《ミステリー》《グラビティ―》《アイロニー》と伸ばし棒が多用されることによって余韻を生んでいる。
甘い罠に やられていく 落ちていく…
5.『パプリカ』
米津玄師 MV「パプリカ」Kenshi Yonezu / Paprika
foorinの可愛さがまるでなくなっちゃったわけですが、民族音楽的な要素が濃ゆくて日本人らしい祭囃子的な笛の音と、音が最小限に抑えられている所にはくどさが無くてちょうどよく調整されている。
6.『馬と鹿』
声こんなにでっかいの初めて。
7.『優しい人』
暗いドラマを想起させる歌い出し、だけどタイトルに沿って、優しい人になりたいという歌詞には米津玄師のこれまでの言葉選びらしさを感じるけど、風景のような描写の表現には新鮮なところを感じた。
ヴィオラの音入れが気持ち良いです。
8.『Lemon』
歌詞がほとんどの人に共感をさせるテーマになっている。
この曲を制作するに当たって『歌謡曲』を参考にした通り、”日本人”に響くことが何よりの目的として制作されていて”米津玄師”というシンガーを一躍有名にさせた名曲だ。
歌い出しはぬるりと同じメロディを繰り返して滑らかにサビに入る前から耳に残りやすい始まり方をしている。
更に、以前のブログにも書いているがこの曲の特に〈ウェッ〉という声のような音を歌のAメロ、Bメロの一節の語尾の度に入れることによって次の詩に移るまでの間を埋めており退屈させない仕組みを作っている。米津玄師のこれまで制作してきた楽曲では『メトロノーム』とかも似たような構造になっているから聴き比べてみると面白い発見があるかもしれない。
9.『まちがいさがし』
菅田将暉に提供した楽曲のセルフカバー。アレンジがヤバい。
ピヨピヨと小鳥のさえずり?が聞こえてきてThe beatlesの『Across the univers』か?と思ってしまったわけですが、グルーブヤバくね?
てか歌の加工のタイミングが良い…!!なんだか名残惜しい感じです。走馬灯にBGMとして聴こえてきそうで〈間違いか正解かだなんてどうでもよかった〉と無事成仏できそうだ。
10.『ひまわり』
バンドメンバーである須藤優さん、堀正輝さんは勿論、ギターにはLAMP IN TERRENの松本大が参加。
イントロから不協和音が快感。
変わらず違和感を生み続けているがロックなサビになりながら歌の抑揚がカッコいい。
〈消し飛べ〉〈吐き出せ〉の歌への感情の込め方がひまわりだなんて綺麗な花からは想像できないが何故だか見事にハマり切っていて米津玄師にしか表現できない世界観がある。
11.『迷える羊』
この曲を聴いた時、何故か『ナンバーナイン』も坂東祐大さんと再編曲してみて欲しいという興味が出てしまった…。
イントロから不協和音の多用をし、混とんしている世界観を築いているが一気に開放的なサビが希望を指すような感動的な展開。歌の感情の表現がこれまで聴いた事のないようなダークっぽいのに強い希望の意思を抱えているような情緒を表していて米津玄師にしか歌えない、米津玄師だからこそ説得力のある歌になっている。
12.『Décolleté』
この変化球には予想は出来ていなかった。
音が他の曲と比べて少ない気もするが情報量が多い。
音楽性はシャンソン…?とかそっち系かと思えばなんなんだか良く分からない…。
リズムの引き出しが一気にこの曲で広がったなと確信できるのは坂東祐大の深みのある音とかからの影響かとも思えるが笛か口笛のイントロには「え?」となった。
13.『TEENAGE RIOT』
ロックナンバー。イントロのギターの歪みから上がっていく感じはクセになる。
14.『海の幽霊』
米津玄師 MV「海の幽霊」Spirits of the Sea
坂東祐大さんとの初の共同で編曲が行われた楽曲でそれまでになかった米津玄師の楽曲にのびやかさが生まれ、また音色のドープさを持っている米津史上で革命的楽曲。
15.『カナリヤ』
普通に街中で、特に夕方商店街を歩いている時に有線から流れてきたらポロポロと心を掴まれそうな楽曲。帰り道とか。
《いいよ 貴方とならいいよ》
絶対的に肯定してくれているようで凄くしんみりと聴き込んでしまうと泣き崩れそうになってしまう。
以上全ての楽曲の感想を書きましたが、ところがどっこい書き足らん…。
特典についての感想
アートブック。
CDケース表紙箔押し仕様って豪華じゃんね。
それからなんと言っても歌詞カード(アートブック)が豪華だこと。
外装は頑丈で透明なアクリル素材。『STRAY SHEEP』のジャケットが痛むことが無い。
一番後ろにはアートブック内の絵のシールが付いている。(使えるわけがない)
宇宙飛行士(?)の格好したロボット(?)とか、ワシを手に乗せた少女の絵とかとか。
それぞれの絵の中で虹色のクリスタルが彩られ、それは触ると凸凹して立体的な仕様になっていてアートワークにもこれまで同様にとにかく手が込んでいる。
LIVE VIDEOには『2019 TOUR / 脊椎がオパールになる頃に』の映像が21曲分収録している。
普通に21曲は多い(笑)
MUSIC VIDEOにはアルバム収録されている楽曲の中から6曲のMVが収録されている。
まとめ&感想
同梱してあるどれもが米津玄師史上ボリューム感のある作品になっている。
出る前からこれは壮大なアルバムになるぞと思っていたがどんな挑戦をするのかはまるで見当もつかない。が予想を超えるという事は予想出来ている。どの楽曲も米津玄師が歌うからこそ意味があり、米津玄師だからこそ響く歌になっている。
『diorama』からも独特な雰囲気があったがまだ既存のロックバンドからの影響は見えていた。
それも今はまるで独自の世界を独り占めして表現力は誰にもマネ出来ないところにまで至った。『カムパネルラ』は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』から来ているのも米津が文学が好きであるところから、それでこそ意味が明確に生まれている。そして彼自身の感性の俯瞰的で人柄の懐の広さが見える唯一無二の楽曲。
歌の表現力も、メロディラインと曲の展開。そして歌詞の比喩表現と人に響く歌詞。
誰にでも響く歌詞も書き、少し難解な歌詞があるからこそ聴きがいがある。何回も聴いてしまうのはその幾つもの複雑なアレンジと幾つもの複雑な歌詞だからだろう。
そして『歌謡曲』を取り入れることによって幅広い年齢の"日本人”に響く楽曲が仕上がっている。そして、絶え間なく羅列された歌詞があるからこそ洋楽ファンも取り込んでしまう多様性を持っている。文句の付け所が一個もない。
SNSで特に饒舌でないところとかもファンを頻繁に満足させて”軽さ”が無いところやミステリアスなオーラが根強いファンを生んでいる理由だろう。
これを書いている間に、米津玄師がサブスクを解禁してしまったわけですが、アートワークでの評価もあり根強いファンに彼は売れているところもあると思う。
もちろん楽曲がある上でだ。
てか情報量多くね? 開けたときになんかシリアルナ〇バーとか入っているし、ジャケットの絵マジかっけーし、裏面の絵も綺麗が過ぎるし、マジこのアルバム曲だけに限らずアートワークとデザインでのアプローチまで豪華すぎてフィジカルで買わないのはもったいなくて…ほんとかってよ…って思うわけですが。
でも、これまで以上に開放感とJ-POP界のカリスマという席を完全に我が物にしてしまったアルバム。脅威。そしておこがましいながら賛辞を贈りたい。あと、ありがとう。これじゃそりゃ米騒動起きてもおかしくねえ…。(今年一位のアルバム決定だ(笑))
そんな感じ!!
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